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スペインあれこれつまみ食い

松尾彩香|スペイン

トルコ・シリア大地震 現地に派遣されたスペインの自然災害特殊チームと物資を寄付する市民たち

©️YouTube -Terremoto Turquia - 28 horas de rescate

みなさんご存知の通り2月6日にトルコ・シリアでマグニチュード7,8の大きな地震が起こりました。SNSに流れてくる目を覆いたくなるような悲惨な被災地の映像や、日に日に増えていく死者の数などを見ていると、居た堪れない気持ちになると共に何か自分にできることはないかと考えを巡らせる日々を送っています。今まで数々の震災を経験してきた私たち日本人にとっては、今回の地震はとても他人事とは思えない出来事でしょう。

 

スペインは即日救助部隊を派遣

ここスペインからは、震災の翌日にUME(緊急事態対処部隊)、消防隊、災害救助犬らが現地に派遣され、現在も必死の救援活動が行われています。一般的に地震発生後72時間以降は生存率が極端に低くなると言われていますが、スペインの隊員らは休むことなく生存者の救助活動を続け、地震から5日後には倒壊した瓦礫の中から6歳と2歳の子供とその母親を救出することに成功しました。

後日、この家族の救助活動を行なったUMEの隊員たちは彼らが入院する病院を訪問し、救出した2人の子供たちにおもちゃをプレゼントしました。UMEの公式ツイッターには救助された母親がUMEの隊員とハグを交わしている写真が投稿され、このツイートのコメント欄はUMEの隊員に対する感謝のコメントで溢れています。

スペインから派遣された隊員らの救出劇はこれにとどまりません。11日海兵隊らは倒壊したビルの撤去作業中に生存者の物音を聞きつけ、瓦礫の中から7歳の男の子を救出。さらに同日70歳男性の救出作業のサポートも行いました。また地震発生から144時間が経過した日曜日には、マドリード市の緊急災害対策チーム(ERICAM)が瓦礫の中から50歳の女性を救出することに成功したのです。

 

自然災害に立ち向かうUMEたち

今回トルコ・シリアに派遣されたUME(緊急事態対処部隊)は、2005年に設置された自然災害に特化したグループです。UMEが設置される以前、自然災害が起きた時に現場に向かうのは消防隊か軍隊でした。しかし彼らは専門的な訓練を受けていない上に通常業務もこなしながら災害に対応しなければいけなかったため、これらの自然災害に対してスムーズな救援作業を行うことができなかったのです。

2004年にスペインのブルゴス県で記録的な大雪が降り何千人もの市民が移動中の車内に閉じ込められるという出来事がありました。さらに翌年2005年にはグアダラハラ県で山火事が起き14人が命を落としてしまったのです。毎年このような自然が引き起こす災害に見舞われながらもスペインにはこれらの対応に特化した組織が存在しませんでした。この現状を問題視した当時のサパテロ首相(同性婚を法制化した首相でもあります)は軍隊の組織の中に自然災害専門のチームを作ることを提案し、2005年10月に当時の陸軍大将フルヘンシオ・コルと手を組んでUME(緊急事態対処部隊)を設立しました。設置当初は国民から批判の声が上がっていましたが、その後相次いだ国内の山火事や洪水などにいち早く駆けつけ第一線で戦う隊員たちの姿に、UMEに対する国民の信頼はどんどん増していったのです。

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ラ パルマ島火山噴火の救援活動©️YouTube - Siempre Fuertes

UMEの活躍は国内だけにとどまりません。その経験と技術を生かして2010年のハイチ地震、2015年のネパール地震、2017年のメキシコ地震とチリ地震、さらにポルトガルの山火事の消火活動などにも参加し、今やUMEは国内外から大きな評価と信頼を得る存在となりました。また、彼らの活動場所は火事や地震だけに限りません。パンデミックが始まってまもない頃、スペイン全土の病院や公共施設の消毒活動を担っていたのもこのUMEですし、川に外来植物が異常繁殖した時はUMEがその除去作業を担当しました。活動を制限せず広い意味で「一般市民の安全を第一線で守る」というのがこのUMEの役割と言えるでしょう。そんなUMEの隊員らは現在、トルコ・シリアの救援活動の他に、今月初旬から発生し今も燃え続けているチリの山火事現場でも消火活動を行なっています。

 

トルコ大使館に続々と届く物資

UMEや消防士たちがトルコ・シリアの被災地で休むまもなく作業に取り組んでいる一方、現地に行くことができないスペインの一般市民たちはできる範囲で被災者たちをサポートしようと行動を起こし始めています。

地震が起こった数日後、私の携帯にひとりの友人からメッセージが届きました。内容は「2月17日にマドリードのトルコ大使館に物資を送るので、それまでの間ここ(住所)で物資の寄付を受け付けています」というもので、毛布や防寒具など必要な物資のリストが添付されていました。このような動きはスペイン全国各地で起こっており、様々なNGO団体やボランティアたちが自主的にこのような活動を行なっているようです。

またマドリードにあるトルコ大使館には多くの市民が食料や衣類などを持ち寄り、大使館が面している通りは寄付されたたくさんの荷物とそれを整理するボランティアの人々であふれている状態が続いています。

現地で救援活動を行うスペインの災害特殊チーム、助かった被災者のために物資を寄付する市民とそれを取りまとめるボランティア。トルコとシリアの被災者たちが1日でも早く平穏な暮らしを取り戻せるように、スペインでは多くの人々がそれぞれの方法で応援をしているのです。

 

Profile

著者プロフィール
松尾彩香

2015年スペイン巡礼(カミノデサンティアゴ)フランス人の道を完歩。スペイン語習得のために渡ったコロンビアでコーヒー農家になるもスペイン移住の夢が捨てられず、現在はコロンビアのコーヒー事業を継続しながらマドリードのベッドタウンでひっそりとスペインライフを満喫中。

Twitter: @maon_maon_maon

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